バイオメトリクスとは? 現代の身元認証技術を解説する完全ガイド
私たちは皆、指紋や顔の特徴、声のパターンなど、固有の生体的な特徴を持っています。これらの生体データは「バイオメトリクス」と呼ばれ、現代ではその用途が増え続けています。特にサイバーセキュリティ分野では、アカウントやデータ、デバイスを保護する手段として活用されています。
本ガイドでは、バイオメトリクスの基本、活用方法、得られるメリット、そして伴う課題について解説します。
バイオメトリックデータとは?
バイオメトリックデータとは、人の身体的または行動的な特徴や属性を対象とするデータのことです。指紋、顔の特徴、網膜スキャンなどがその例です。こうしたデータは、個人を識別・認証する目的で利用されます。たとえば、スマートフォンの指紋センサーに指を当てるだけでロックを解除できる場合があります。
バイオメトリックデータはどのように収集されるのか
バイオメトリックデータは、政府機関から大手テック企業、さらにはソーシャルメディア企業まで、さまざまな組織によって多様な方法で収集されています。以下は、その収集方法の代表例です:
- スマートフォンやパソコンなど、新しいデバイスを設定するとき:これらのデバイスには、顔認証や指紋認証といった生体認証機能が組み込まれています。
- 空港や国境管理の場面:旅行者の写真撮影や指紋スキャンが行われることがあります。
- DNA解析サービスを利用するとき:家族のルーツや祖先を調べるためのサービスが該当します。
- 生体データを収集・生成・保存できるアプリを使用するとき:たとえば、ユーザーの顔写真や音声データを扱うアプリがあります。
- バイオメトリック認証を採用している職場:網膜認証や指紋認証でドアやアクセス権を制御している場合があります。
- AlexaやGoogle HomeなどのAI音声アシスタントとやり取りするとき:これらのデバイスは、ユーザーの音声データを収集することがあります。
- 一部のソーシャルメディアプラットフォーム(例:TikTok):TikTokは2021年に、ユーザーのバイオメトリックデータ収集を認める規約に変更しています。

バイオメトリックデータはどこに保存されるのか
バイオメトリックデータは非常に機密性が高いため、安全に保存する必要があります。保存方法にはいくつかの種類があります:
- デバイス内に保存する方法:生体データを取得した端末にローカル保存する仕組みです。たとえば、スマートフォンで顔認証を設定した場合、そのデータは通常そのスマートフォンだけに保存されます。
- 生体認証用サーバーに保存する方法:生体データを安全なサーバーに保存するケースで、サーバーは物理的なものもあればクラウド型の場合もあります。
- 分散型ストレージシステム:先の2つの方式を組み合わせた方法で、生体データの一部を端末に残し、その他を安全なサーバーに保存することで、セキュリティとアクセス性のバランスを取ります。
また、生体データは多くの場合、暗号化されたテンプレートとして保存され、生の画像としてそのまま保存されるわけではありません。こうした仕組みによりセキュリティが向上し、データが漏れたり不正アクセスされた場合でも、復号化や悪用が非常に困難になります。
バイオメトリクスによる識別方法の種類
バイオメトリックデータには多くの種類があり、指紋のように広く知られているものから、行動や比較的目立たない身体的特徴に基づく、あまり知られていない手法までさまざまです。
これらは大きく 「物理的バイオメトリクス」 と 「行動的バイオメトリクス」 の2種類に分類できます。
物理的バイオメトリクス
物理的バイオメトリクスには、たとえば次のようなものがあります:
- 指紋
- 指の形状(形や大きさ)
- 眼のスキャン(網膜・虹彩を含む)
- 顔の特徴
- 耳の形状
- 心拍パターン

行動的バイオメトリクス
行動的バイオメトリクスには、たとえば次のようなものがあります:
- 声や話し方のパターン
- 署名
- タイピングの傾向
- 歩き方・走り方(歩容)
バイオメトリクス認証はどのように機能するのか
バイオメトリクス認証は、まずユーザーの生体データを取得してデジタルテンプレートに変換するところから始まります。このテンプレートは通常、セキュリティ確保のため暗号化されます。その後、ユーザーが認証を行う際に、システムが新しい生体データを読み取り、保存済みのテンプレートと照合します。一致すれば、アクセスが許可されます。

例を使って流れを見てみましょう:
- ユーザーは指紋センサーを搭載した新しいスマートフォンを購入します。
- セットアップ時に指紋の登録を求められ、ユーザーは指をさまざまな角度でセンサーに当ててスキャンします。
- 指紋データは暗号化され、端末内に安全に保存されます。
- 次に指紋でスマホのロックを解除しようとすると、ユーザーは再びセンサーに指を置きます。
- 端末はその場で新たに指紋を読み取り、保存済みのデータと照合します。一致すればロックが解除されます。
バイオメトリクスを利用するメリット
バイオメトリクス技術を使うことで得られる主なメリットには次のようなものがあります:
- 高いセキュリティ:かつてはアカウント保護といえばパスワードが中心でしたが、パスワードは推測やハッキングのリスクがあります。一方、バイオメトリクスは一人ひとり固有で偽造が非常に難しいため、アカウントやデバイス、データの安全性が大きく向上します。
- 高い利便性:ユーザーは強力なパスワードを覚えて毎回入力する必要がなく、指先を軽く当てたり顔をスキャンしたりするだけでロック解除やアカウントアクセスができます(もちろん、安全で直感的なパスワードマネージャーを使わない場合の話ですが)。
- 幅広い用途:バイオメトリクスは活用できる領域が非常に広く、金融や銀行、医療、教育、テクノロジーなど、多くの業界ですでに使われています。
バイオメトリクスのリスクと課題
メリットが多い一方で、バイオメトリクスは万能ではありません。いくつかの課題やリスクが存在するため、それらを理解したうえで、可能な範囲で対応する必要があります。
バイオメトリクスはハッキングされるのか?
バイオメトリクスは人によって完全に固有のデータなので、ハッキングは不可能に見えるかもしれません。しかし実際には、人工知能(AI)などの最新技術を用いることで、バイオメトリクスがハッキングされてしまう可能性があります。
2018年、ニューヨーク大学タンドン工学部とミシガン州立大学の研究チームは、 指紋スキャナーを本物と信じ込ませる偽の指紋画像を作成しました。これらは本物そっくりなだけでなく、多くの人のデバイスを解除できるほど精巧でした。研究者たちは GAN(生成的敵対ネットワーク)を使い、実物そっくりの指紋画像を大量に生成し、どの偽指紋が認証システムを最も欺けるかを徹底的にテストして調整しました。そして完成したのが「DeepMasterPrints」と呼ばれる偽の指紋で、実際のユーザーの指紋を知らなくてもスマホやデバイスを解除できてしまいます。
サイバー犯罪者は、偽の生体データを作るだけでなく、スキミングによって生体データを盗むこともできます。これは、ATMなどの装置から指紋データを抜き取るための特殊な機器を使う手口です。
生体データは、漏えい事故やデータベースの侵害によって流出する可能性もあります。サイバー犯罪者がこれらのデータにアクセスした場合、暗号を解読して悪用する恐れがあります。
プライバシーや身元情報に関する懸念
生体データの収集によってプライバシーが脅かされるのではないかと懸念する声も多くあります。プライバシーを重視する人や、企業や機関が自分のデータをどのように収集・保存・利用するのか不安を抱く人にとって、指紋や眼のスキャン、顔写真といった情報が記録として保持されることは恐怖につながり得ます。
個人データが収集・保存される場面では、常に「どう利用されるのか」「誰かに悪用されたらどうなるのか」という懸念がつきまといます。強力な暗号化やデバイス内保存といった対策があったとしても、生体情報のような高度に個人的なデータがサイバー犯罪者の手に渡る可能性はゼロではなく、プライバシーが重大な危険にさらされるリスクがあります。
バイオメトリクスはパスワードより安全なのか?
一般論として、バイオメトリクスはパスワードより安全と広く評価されています。生体データは一人ひとり固有であり、指紋や顔の特徴などが唯一無二であるため、パスワードのように「弱い設定」によるリスクを排除できるからです。一方でパスワードは、強固でない場合は容易に解読されたりコピーされたりすることがあります。
このため、バイオメトリクスで保護されたアカウントやデバイスは、単なるパスワード保護のものより不正侵入されにくい傾向があります。ただし、生体認証が完全無欠というわけではありません。前述のとおり、生体認証を欺く方法や、生体データそのものを盗み取る手段は存在します。
バイオメトリックデータを保護する方法
いくつかのベストプラクティスを実践し、慎重かつ段階的にデジタルセキュリティに取り組むことで、生体データに伴うリスクを軽減できます。
個人が実践できるベストプラクティス
- 同意する前にしっかり考える:企業が生体データの提供を求めてきても、何も考えずに「同意する」を押さないようにしましょう。どのようなリスクがあるのかを理解し、少しでも不安がある場合は同意しない選択肢も検討してください。
- 複数の保護レイヤーを使う:アカウントを守る際、パスワードや生体認証だけに頼るのは避けましょう。2FAやMFAを含む複数のセキュリティ層を組み合わせることで、あなたの身元を模倣・盗用されるリスクを大幅に低減できます。
- VPNに接続する:VPNを利用すると、送受信する生体データを含むインターネット通信が暗号化され、第三者が盗み見ることが難しくなります。特に公共のWi-Fiや、安全性の低いWi-Fiネットワークを使用する際に重要な対策です。
企業はバイオメトリクスをどのように保護すべきか
生体データを取り扱う企業は、データを暗号化し安全に保護するために必要なあらゆる対策を講じ、データの損失・侵害・漏えい・盗難のリスクを最小限に抑える必要があります。そのための取り組みとして、次のような対策が挙げられます:
- 生体データのセキュリティ管理を担当する明確な責任者を任命する。
- 安全なデータ保存ポリシーを導入する。
- 生体データの取り扱い・保護方法について従業員を教育する。
- 誰がどのようにデータへアクセスできるのか、明確なアクセス制御を設定する。
- セキュリティ上の弱点を特定するため、リスク評価や監査を実施する。
- サイバーセキュリティの専門家に相談し、専門的な知見や助言を取り入れる。
バイオメトリクスの未来
バイオメトリクスが廃れることはありません。予測では、この業界は2025年から2033年にかけて価値がほぼ4倍に成長すると見込まれており、生体認証はデバイスやソフトウェア、職場環境でますます一般的になっています。将来的には、コンピューター、スマートフォン、ウェアラブルデバイス、スマートホーム機器にも生体認証が標準搭載されていくでしょう。さらに、指紋や音声スキャンといった複数の生体データを併用してセキュリティを強化し、より厳しいアクセス制御を実現する「マルチモーダル生体認証システム」も、広く普及すると予想されています。
FAQ: Common questions about biometrics
バイオメトリクスとは何か、簡単に説明すると?
簡単に言うと、バイオメトリックデータとは、指紋や声のパターンのような、人の身体的・生体的特徴を示すデータのことです。
バイオメトリクスの利用例は?
バイオメトリクスの実例としては、スマホのロック解除に指紋を使ったり、オンラインアカウントにアクセスする際に顔認証を使ったりすることが例として挙げられます。
バイオメトリクスを使う目的は?
生体認証は、従来のパスワードに代わり、より安全で便利な認証手段として設計されています。
バイオメトリクス認証(verification)とは?
バイオメトリクス認証とは、指紋などの生体データを使ってアカウントを保護し、ユーザーの身元を確認する仕組みのことです。
生体データは端末に保存されるのか、それともクラウドなのか?
場合によります。デバイスのみに保存する企業もあれば、クラウドや物理サーバーで管理する企業もあります。
生体情報は削除できる?
居住地によって異なります。生体データに関する法律は急速に整備されているため、国によっては企業の記録から生体データの削除を求めることができますが、すべての痕跡が完全に消えるとは限りません。また、スマートフォンなどの端末では、登録済みの指紋などの生体データを削除することもできます。
生体データが盗まれたらどうなる?
盗まれた生体データは、ユーザーになりすまして個人情報やアカウントにアクセスするために悪用される可能性があります。詐欺、なりすまし、その他のサイバー犯罪に利用される恐れがあります。
ネット上で身を守るための第一歩を踏み出しましょう。リスクなしでExpressVPNをお試しください。
ExpressVPN を入手